歩くとふらつく。思うように足を動かせない。これまで登れていた場所にジャンプできない。

神経型FIPでは、このような神経症状がみられることがあります。

今回ご紹介する「ぼんちちゃん」も、当院を受診したときには強いふらつきがあり、自力で高い場所へジャンプすることができませんでした。

そこから治療を始め、少しずつ歩けるようになり、階段を上れるようになり、遊べるようになり――。

治療開始から約3か月後には、約1mの高さのテーブルへ自分でジャンプできるまでに回復しました。

今回は、ぼんちちゃんがどのように回復していったのか、実際の治療経過をご紹介します。

※本記事は一頭の猫ちゃんの治療経過をご紹介する症例記事です。FIPの症状や治療への反応には個体差があります。写真・動画は飼い主さまの同意を得て掲載しています。

神経型FIPとは?

FIP(猫伝染性腹膜炎)は、猫コロナウイルス(FCoV)に関連して起こる病気です。

発熱や食欲低下、体重減少、胸水・腹水などさまざまな症状がみられますが、脳や脊髄などの中枢神経系に病変が及ぶことがあります。

これが一般に神経型FIPと呼ばれる状態です。

神経型FIPでは、ふらつき、歩行異常、姿勢の異常、震え、けいれんなど、病変の場所によってさまざまな神経症状がみられます。

以前はFIPは治療が非常に難しい病気でしたが、現在は抗ウイルス薬による治療によって、寛解を目指せるようになってきています。神経症状を伴うFIPでも、抗ウイルス治療によって良好な経過をたどる症例が報告されています。

ぼんちちゃんが当院を受診したとき

ぼんちちゃんは、他院でFIPと診断され、molnupiravirによる治療を受けていました。

その後、再び体調を崩し、ふらつきや歩行異常などの神経症状がみられるようになったため、当院を紹介受診しました。

来院時の体重は3.1kg。

食欲も十分ではなく、チュールなどを中心に食べている状態でした。

そして何より目立っていたのが、歩くときの強いふらつきと四肢の不安定さでした。

以前のように体を自由に動かすことができず、高い場所へ自分でジャンプすることもできません。

これまでの治療歴や検査結果、臨床症状などを総合して、神経症状を伴うFIPとして治療を開始しました。

治療から約1週間

まず表情が変わりました

治療を始めて約1週間。

まず変わってきたのは、ぼんちちゃんの表情でした。

来院時と比べて顔つきがしっかりしてきて、少しずつ元気も戻ってきました。

食欲にも改善がみられ、動こうとする様子も増えてきました。

まだふらつきは残っていましたが、「少し良くなってきた」と感じられる変化が出始めた時期でした。

約2週間

これまで登れなかった場所へ

治療開始から約2週間。

運動機能にも少しずつ変化が出てきました。

それまで登ることができなかった場所へ、自分で登れるようになりました。

できなかったことが、一つずつできるようになっていきました。

約1か月

再び遊び、階段を上れるように

治療開始から約1か月になる頃には、おもちゃを追いかけるなど、遊びへの反応が戻ってきました。

歩くだけではなく、興味のあるものを追いかけて体を動かせるようになり、姿勢や動きの協調性も改善していきました。

その後は、階段も自分で上り下りできるようになりました。

来院時には歩くこと自体が不安定だったことを考えると、大きな変化です。

42日間の抗ウイルス治療を終了

ぼんちちゃんでは、検査結果や全身状態、治療への反応を確認しながら、42日間の抗ウイルス治療を行いました。

治療終了時にはSAA(血清アミロイドA)が正常化し、血液検査や腹部超音波検査なども含めて状態を評価したうえで、抗ウイルス治療を終了しました。

ただ、この時点で神経症状がすべてなくなっていたわけではありません。

FIPの治療期間は、病型や症状、使用する抗ウイルス薬、治療への反応などによって異なります。神経型FIPが一律に42日間の治療で終了できるという意味ではありません。

約3か月後

再び1mの高さへジャンプ

抗ウイルス治療が終了したあとも、ぼんちちゃんの運動機能は少しずつ改善していきました。

歩き方が安定し、体をより自由に動かせるようになり、以前の生活に戻っていきます。

そして治療開始から約3か月。

約1mの高さのテーブルへ、自分でジャンプできるようになりました。

来院時には3.1kgだった体重も3.6kgまで増え、食欲もほぼ元通りになりました。

「もう一度、ジャンプできるようになりました。」

ぼんちちゃんの回復を見ていて、私たちにとっても非常に印象に残った瞬間でした。

FIPが落ち着いたあとも、神経機能が回復していくことがあります

今回のぼんちちゃんの経過で、特にお伝えしたいことがあります。

FIPそのものが治療に反応することと、神経症状が改善していくことは、必ずしも同じタイミングではありません。

神経型FIPでは、抗ウイルス治療によって全身状態や検査値が改善したあとも、ふらつきや歩行異常などが残ることがあります。一方で、その後さらに神経機能が改善していく猫ちゃんもいます。

ぼんちちゃんも、抗ウイルス治療終了後に運動機能の改善が続き、最終的には再びジャンプできるようになりました。

そのため治療中の検査結果だけでなく、食欲や体重、歩き方、ジャンプや階段など普段の生活でできることがどう変わっているかも、大切な経過の一つです。

一度FIPの治療を受けた猫ちゃんでも、再び症状が現れることがあります

ぼんちちゃんは、他院でFIPの治療を受けたあと、神経症状を伴って再び体調を崩しました。

FIPでは、抗ウイルス治療後に再び症状が現れる症例があります。

治療後に元気や食欲が落ちてきた、体重が減ってきた、ふらつく、歩き方がおかしいなど、以前とは違う変化がみられた場合には、状態を確認することが大切です。

一度治療を終えているからといって、FIPを完全に除外できるわけではありません。

まとめ

できなかったことが、一つずつできるようになりました

当院を受診したときのぼんちちゃんは、強いふらつきがあり、自分で高い場所へジャンプすることができませんでした。

そこから治療を始め、表情が変わり、登れるようになり、おもちゃで遊び、階段を上り下りできるようになりました。

そして約3か月後。

再び、自分の力で約1mの高さへジャンプできるようになりました。

神経型FIPでは、抗ウイルス治療への反応と神経機能の回復が必ずしも同じ速度で進むとは限りません。

ぼんちちゃんの経過は、治療後も時間をかけて神経機能が改善していくことがある、その一例です。

すべての猫ちゃんが同じ経過をたどるわけではありませんが、FIPは抗ウイルス薬の登場によって、寛解を目指して治療することができる病気へと変わってきています。

FIPについてご心配なことがあればご相談ください

ルル キャットクリニックでは、FIPが疑われる猫ちゃんの診断・治療だけでなく、他院でFIP治療を受けている猫ちゃんのご相談や、治療後に再び症状が現れた場合のご相談も受け付けています。

「FIPかもしれないと言われた」
「治療を始めたけれど、このままでいいのか心配」
「治療後にまた症状が出てきた」

など、ご不安なことがあればご相談ください。

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