FIPと診断された時、多くの飼い主さんは「治療法がない」と考えてしまいます。
ネットで調べると、治療が成功した例、再発した例、治療薬の副作用の話、治療しても治らなかった例——様々な情報が混在しています。1例1例の情報を集めるだけでは、混乱するばかりです。
私たちは100例以上のFIP症例を診てきました。その経験から言えることは、FIPは治療できる病気であり、複数の薬の選択肢があり、適切に対応すれば、多くの猫たちが今まで通りの生活を取り戻せるということです。
複数の治療選択肢がある
FIP治療には、いくつかの薬剤選択肢が存在します。

主なものはレムデシビル、GS441524、モルヌピラビル、MutianXといった抗ウイルス薬です。それぞれ投与量、投与間隔、内服か注射かが異なります。
重要なのは「選択肢がある」ということです。一種類の治療が合わなければ、別の選択肢を試すことができます。
治療期間については、私たちは42日間の治療を推奨しています。これは論文に基づいた推奨です。ほとんどの子が42日間で治療を完了します。ただし、検査結果に基づいて再発リスクが高い場合には、84日間に延長することもあります。
治療成績:86%が寛解に至る
論文によると、FIPと診断された猫のうち、適切な治療により86%が寛解状態に至っています。

これは2020〜2022年の国際的なデータです。Wetタイプで49.5%、Dryタイプで11.4%など、タイプ別の成績もあります。私たちの経験でも、論文と同じ割合で寛解を迎えています。
つまり、現在のFIP治療は「ほとんどの猫が症状のコントロールに成功する」というレベルに達しているのです。
「寛解」と「治癒」——なぜ同じ意味ではないのか
ここで大切な区別が必要です。FIP治療後、私たちは「治ったか、治らなかったか」と言いません。代わりに「寛解した」という言葉を使います。
なぜでしょう?
「治癒」や「完治」という言葉は、「病気が完全に消えて、もう二度と戻らない状態」を意味します。FIPの場合、現在の治療法では、そこまでの保証ができないのです。
一方、「寛解」とは「症状が抑えられ、コントロール可能な状態になること」を意味します。FIPの場合、ウイルスが体の中に存在していても、免疫バランスが整えば、猫は普通の生活を送ることができます。
つまり、治療後の段階を正直に言葉で表現するために「寛解」という言葉を使うのです。

投薬終了後1〜2ヶ月は再発のリスクが高く、再発率は10〜15%程度です。だからこそ、治療後も定期的なモニタリング(血液検査、超音波検査)が必要になります。もし再発した場合も、高用量の再治療で再度の寛解が期待できます。
治療費と投薬の現実
FIPはかつて「高額な治療費がかかる」とされていました。実際のところはどうでしょう。
当院での例を挙げます。Wetタイプで初期症状、体重2kgの猫さんだと、42日間の治療全体で約20万円ほどに抑えることができます。
投薬についても、飼い主さんの不安は大きいでしょう。ただ、当院で使用する薬は無味無臭で1日1回なので、ほとんどの子がチュールと一緒なら食べてくれます。猫さんにとっても飼い主さんにとってもストレスが少ないです。
通院スケジュール
治療期間中の通院はどのくらい必要でしょう。
初診から1週間後に再度ご来院いただき、その後の反応を確認します。治療が安定すれば、通院は2週間から3週間に1回程度。その間はご自宅で投薬を頑張ってもらうだけです。
つまり、治療期間中のご負担も、思ったほど大きくないということです。
早期発見が、治療成功の鍵を握る
FIP治療の成功率が高いのは事実です。
同時に、「できるだけ早い段階での診断と治療開始」が、その成功率をさらに高めることも事実です。
進行が進んでからの治療より、初期段階での治療の方が、より高い確率で寛解に至ります。
「なんとなく様子がおかしい」「食欲が落ちている」「発熱が下がらない」——こうした初期症状が見られたら、動物病院で診てもらうことが重要です。特に子猫のうちから異変があれば、一度当院に診せにきていただけたら幸いです。
次のステップへ
FIPは、もはや「診断即ち終わり」ではありません。
治療方法がある。成功率が高い。適切に対応すれば、愛猫は日常生活を取り戻せます。
その一方で、「寛解」という言葉が示すように、治療後も継続的なケアが必要です。
この両方を理解したうえで、もしFIPが疑われたら、まずは相談してください。私たちは、あなたと愛猫が歩むべき道を、一緒に考えます。





