「FIP?」——初めてお聞きになる方もいらっしゃると思います。
まずは、ネットで検索してみる。そうすると、いろんな情報が出てきます。「治療法がない」「致死率が高い」という古い情報も大量に出てきます。一方で、高額な治療法や民間療法も検索結果に出てきます。
何が正しくて、何が古い情報なのか。どの獣医師の言葉が信頼できるのか。飼い主さんはそこで混乱されます。
実は、それが多くの飼い主さんの辿る道です。
でも、その前提は変わりました。FIPは、今、治療できる病気になったのです。
私たちが経験してきた171例のFIP患者さんのうち、87.1%が寛解に至っています。診断が難しいのは事実。治療に複雑さがあるのも事実。ただ、「複雑」なことと「治らない」ことは全く違うのです。
この記事では、診断されたときに飼い主さんが最初にぶつかる疑問を、順番に解きほぐしていきます。
FIPってどんな病気?


FIPは「猫伝染性腹膜炎」。猫が感染するコロナウイルスが原因です。
ただし、猫がコロナウイルスに感染したからといって、必ずFIPを発症するわけではありません。実は、多くの猫はこのウイルスに感染しています。多頭飼育環境では、ほぼ全ての猫が感染しているほど。問題は、その一部の猫の体内で、ウイルスが変異し、免疫が過剰に反応してしまうことです。
FIPには2つのタイプがあります。
Wetタイプは、お腹や胸に水がたまるもの。症状が目に見えやすいため、比較的診断がつきやすい傾向があります。
Dryタイプは、臓器に肉芽腫という塊ができるもの。症状が多彩で、発見が遅れることが多いため、治療のタイミングも遅れてしまう病態です。
発症するリスクが高いのは、3歳以下の若い猫。多頭飼育環境やストレスが多い環境にいる猫ほど、発症の可能性が上がります。
こんな症状が出たら、FIPを疑ってください

私たちの経験上、FIPの初期症状で最も多いのが、発熱と食欲低下。そして、飼い主さんが最初に気づくサインが「グルメ化」です。
「いつもは見向きもしないチュールやおやつは食べるのに、普段のフードは食べない」
こういう様子が見られたら、要注意です。FIPの猫の多くが、この初期段階で「美味しいものしか食べない」という行動を見せます。
Wetタイプであれば、お腹が張ったり、呼吸が荒くなったりする症状が目立ちます。Dryタイプでは、後肢がふらつく、目の色が変わるなど、より多彩な症状が現れることがあります。
「なんとなく様子がおかしい」——そういった漠然とした違和感が、実はFIPの初期サインのことが多いのです。
診断が難しい理由



ここが、多くの飼い主さんが困惑する点です。「はっきり『FIPです』と診断されていないのに、『FIPの可能性が高い』と言われた」こういった経験を持つ方も少なくないでしょう。
その理由は、獣医師の側にもあります。FIPには確定診断がないからです。血液検査、超音波検査、PCR検査など、複数の検査結果を組み合わせて判断する。その過程で、獣医師も結論が出せず、悩まれることが多いのが現実です。
診断に使われる情報は多岐にわたります。年齢、性別、同居猫の有無、これまでの病歴。体重の減少具合、発熱の有無。血液検査の数値(特にグロブリンという蛋白、SAAという炎症マーカー)。超音波で見える腎臓の変化やリンパ節の大きさ。時には目の検査も必要になります。
これらすべてを総合的に判断して、初めて「FIPの可能性が高い」という診断に至ります。だからこそ、診断には時間と経験が必要になるのです。
朗報:治療できる時代になった


FIPの治療法は、この5年で劇的に進化しました。
確実な治療法がないと言われていたのは過去。現在では、複数の治療薬が使用可能になっています。抗ウイルス薬がFIPウイルスの増殖を止め、ステロイドが過剰な免疫反応を抑える——この組み合わせで、多くの猫が寛解に至るようになったのです。
「寛解」という状態というのは、FIPウイルスがコントロールされ、症状が落ち着いている状態。完治とは異なりますが、この状態になれば、多くの猫が日常生活を取り戻し、長く生きることができるのです。
治療期間は通常42~84日間。治療中は、定期的な血液検査と超音波検査で、猫がどう反応しているかを確認していきます。飼い主さんの協力も欠かせません。投薬時間の厳守、投薬が難しい場合の相談など、チーム全体でその子を支えていくことが重要です。
次の記事:猫のFIPは治療できる?寛解と治癒の違いを解説はこちら
まずは私たちに相談してください
FIP診断されたら、やるべきことはシンプルです。
信頼できる獣医師に、その診断根拠を丁寧に説明してもらうこと。セカンドオピニオンを求めることも、決して失礼ではありません。
そして、治療の選択肢があることを知ること。治療にはリスクもありますが、「何もしない」という選択肢と比べれば、希望を持つ余地は十分あります。
診断が難しい病気だからこそ、経験を重ねた医療チームとの相談が大切です。私たちのルルキャットクリニックでも、FIP診断された猫の受け入れ相談をいつでもお受けしています。
「もう助からない」と思い込む前に、まずは私たちに相談してください。その一歩が、あなたの猫の未来を変えるかもしれません。





